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【小説】東須磨は夕方六時(6)

 富田です。今日も恥を振りまきます。
 前口上も適当になってきていますが、まあそれはそれで。

 …それではどうぞ。

 ―圭吾の顔、今日は赤くなりっぱなしだな。

「さて、自分で云うのも嬉しいけど、クラスのアイドルである僕に告白した圭吾はクラスの『独占禁止法』とやらを破ってしまったわけだけど」

 微笑みながら僕は耳元で囁く。圭吾の顔はまだ赤い。今日の君は本物の勇者だよ。『クラスのアイドル』を独り占めする決意をして、しかもそれをたった一日で実行してしまったのだから。

「・・・後悔はしてないよ。自分の気持ちを奈津希に伝えることも出来たし。クラスの連中に妬まれたっていい。まあ、俺は来学期からクラスに居ることもないしな」

 彼は自分の置かれている環境を熟知し、覚悟もしていた。当然、自分のことだから、近いうちに東京へ引っ越すことも、恋人が出来ても別れがすぐに来ることも。だからこそ少しでも永く想い人と一緒にいたい。だから告白したのだろう。僕らの別離の時はもう迫っているのだ。だからこそ、この夏はできる限り一緒にいたい。

 気づけば終業式を迎え、担任教師の口から初めて圭吾が転校することが知らされた。圭吾は前に出ると、簡単に別れの挨拶をして席へ戻った。「あんな奴いたっけ」などと囁いているクラスメイトもいた。だが、そんなことはどうでもいい。僕らには六百キロメートル近くの距離に負けないくらいの愛を育むという重要なミッションがある。そんな連中には構っていられないのだ。

 それからと云うものの、遊びに行く時は常に圭吾と一緒だった。二人で歌い合うことは勿論のこと、ハーバーランドや美術館、博物館などでデートをするのはもはや恒例行事だった。時には旅行と称して京都や奈良へ行くこともあった。インディーズバンドのライブにも行った。そのすべてが思い出となって僕らに蓄積されていく。ハーバーランドでのデートを終えたとき、圭吾から旅立つ日を教えてもらった。夜行バスで旅立つらしい。旅立ちは八月の下旬、ちょうど新学期の準備にもぴったりの時期だった。そして、最後の神戸デートで。

「もう、ここでのデートは最後なんだね」

 僕は寂しさを顕に呟く。ここが別離の場所になる・・・と考えると、正直なところ泣けてきてしまった。バスターミナルも下見した。バスターミナルでは多くの乗客がバスを待っていた。買い物を済ませて淡路島へ帰る乗客、あるいは四国や九州へ発つ乗客。圭吾と同じように東京へ旅立つ乗客。さまざまな乗客はそれぞれの思いを抱えながらバスを待っていた。もう数日後には圭吾もここで待つ乗客の仲間入りをしてしまうのか・・・と考えると、涙が溢れてきた。

「圭吾、僕、正直寂しい・・・圭吾と会えなくなっちゃうなんて」
「俺も正直寂しいよ。でも旅立たないといけないんだ。全然知らない土地で、リセットする時が来たんだ。・・・って、ちょっとカッコつけ過ぎかな」

 僕がこうやってしめっぽくなった時でも圭吾はいつもの圭吾だった。そして、こう付け足した。

「俺らはあれだけの愛を育んだんだ。たかだか六百キロメートルなんてショボイもんさ」

 僕は涙目で、しかし笑顔で答えた。

「うん、いろんなところ、行ったもんね。いろんなこと、したもんね。あれだけすれば、十分だよね」
「それは違うな。まだ不十分だ。これからも様々な手段を講じて俺と愛を育むんだ。あと、俺も時々神戸に帰ってくるから」
「そうだね、確かにまだ足りないな。圭吾も約束だからね、絶対帰ってきてよ」

 乗客の多い『ミント神戸』の一階、神戸三宮バスターミナル。そんなところでこんなやりとりを見せられては、他の乗客は堪ったもんじゃなかったかもしれない。でも、僕らはそうする他はなかったんだ。

 数日を置いた頃の夜、遂に別離の時が来た。僕らはこの間バカップルっぷりを見せつけた、三宮バスターミナルへと向かった。ターミナルはそれぞれの目的地へ旅立つ乗客で溢れていた。以前と同じように、それぞれがさまざまな思いを抱きながらバスを待つ中、僕らは言葉少なに待合室の座席に腰を掛けた。僕は涙を流しながら。

「本当に・・・行くときが来ちゃったね」
「遂にだな」

 圭吾は相変わらずさっぱりしている。しかし、圭吾の目に涙が浮かんでいたのを僕は見逃さなかった。そりゃそうだ。恋人との別離の時に涙が出ない人なんてそうそういない。でも僕らは育んできた愛で永久に繋がっていると思っている。そして、遂にバスが入ってきた。ポーターが手際よく次々と手荷物をトランクへ入れていく。圭吾の手荷物もトランクへ収められた。本当にこれでお別れだ。僕は終始泣きっぱなしだった。この時ばかりは圭吾も涙を流していた。

「俺・・・頑張るから・・・奈津希も頑張ってくれ・・・」
「無理しなくて・・・いいよ。僕、圭吾に追いつけるように・・・頑張るから・・・」
「追いつく・・・?」
「今決めた・・・東京の大学受けて・・・圭吾に追いつくから・・・」
「そうか・・・わかった。待ってる」
「絶対行くから。ずっと一緒にいたいから」

僕らは当分できないであろう、口づけを交わした。濃厚に、かつ、愛をこめて。

「うん、じゃあ・・・ひとまずさよなら」
「うん・・・じゃあね」

 圭吾は泣くのをやめた。しかしまだ瞳には涙が浮かんでいるようだった。僕はバスがターミナルを離れ、追いつけなくなるまでバスを追いかけ続けた。追いつけなくなった時、涙は自然と止まっていた。圭吾に追いついてみせる。その思いが僕を支配していたからだ。

 <つづく>

テーマ : 自作連載小説
ジャンル : 小説・文学

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