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【小説】東須磨は夕方六時(4)

 富田です。

 赤っ恥小説も中盤に差し掛かってきました。こんなのが暫く続きます。
 自分で読んでいて寒気がしてきましたが、もしよろしければどうぞ。

「・・・お前は、俺が見える?」

 西日が眩しい中、中谷くんは唐突に質問を切り出した。いきなりどうしたのだろう。もちろん見えている。見えているに決まっているじゃないか。

「ん・・・?見えているよ」

 至ってナチュラルに、そして何も考えずに答えた。

「俺とこうして話してるとき以外も?」
「うん、見えるよ」

 そう答えると中谷くんは。

「いつから見えるようになった?」

 『見える』か・・・僕が思っていた『見える』と彼の云う『見える』は意味が違ったみたいだ。僕は率直に話した。至って率直に。

「・・・いつかはわからない。でも、はっきり『見える』ようになったのはあの時からかな。誰かわからないけど、透き通った声で歌いながら誰かがナンバガの曲を歌っていた。その時」
「そうか・・・お前もそれまではやっぱり見えてなかったのか」

 背筋が凍るような思いだった。はっきり云って中谷くんは寡黙であることともに、厳しそうな風貌からクラスの面々から敬遠されていたのだ。僕も正直なところ、畏れ多くてなかなか話しかけることが出来なかった。僕が思うに、例えて云うなら透明少年。クラスのみんなも恐らく同じことを思っていることだろう。中谷くんと話したことは事務的な会話くらいなもので、中谷くんは自分が所属する委員会の職責を全うする時以外は独りぼっちだった。そんな中谷くんが、誰にも見せたことがないであろう顔を僕に見せている。

「でも、今は見えているんだよな」
「見えているよ、はっきりと」

 僕は笑顔で答える。見えているよ。見えているよ、中谷くん。

「その・・・なんというか、カマ野郎・・・いや、その・・・」
「うん?」
「名前で・・・呼んでいいかな・・・」
「むしろ名前で呼んで。僕オカマじゃないし」
「その・・・奈津希・・・俺の・・・か・・・いや、友達に・・・なって欲しい・・・」

 中谷くんが顔を赤らめて云った。まるで告白するかのように。これも一種の告白なのか。僕もつられて顔を赤く染める。照れる。

「・・・いいよ、なろうよ。むしろ僕もなりたいと思ってた。なろう、友達に」
「・・・ありがと。実は・・・・・・」
「何?」

 相変わらず、頬を赤くし恥ずかしそうに中谷くんは云う。僕達もう友達同士だよ。恥ずかしがらなくてもいいよ。

「・・・実は、奈津希が高校に入ってからの初めての友達なんだ。みんな俺のことをどこかで怖がっているのはなんとなく分かっていたし、俺から話しかければみんなが怖がるんじゃないか、って思って話しかけることが出来なかった。そんなんだから、学校がちょっと嫌になってた。自分で云うのも照れくさいんだけど、委員会にも入っちゃったし、責任は果たさないといけないと思って。でもやっぱり友達を作ることは出来なかった。だから楽しみが欲しかった。その『楽しみ』こそがギターだった。軽音も見学したけど趣味が合わなかった。だから学校では一人で音楽をすることにした。それが学校での唯一の楽しみだった」
 
 赤裸々に告白した中谷くん。ここまで云うの、きっと勇気が要ったと思う。そうして中谷くんはピックを手に取り奏で始めた。ナンバーガールの『透明少女』だった。僕が初めて中谷くんを『見た』時と同じ曲。

「ちょっと、お願いがあるんだけど・・・」
「ん、なに?」
「・・・歌って欲しい」
 意外といえば意外、予想通りといえば予想通りの要望だった。
「今日、涼しいな」

 中谷くんは笑顔で云う。僕は思いの丈をぶつけるように思い切り歌った。

 ―はいから狂いの 少女たちは 桃色作戦で
 ―きらきら光っている 街かどは今日も アツレキまくっている
 ―とにかく オレは 気づいたら 夏だった!

 この時、中谷くんは僕を「はいから狂いの少女」に見立てて、僕に『桃色作戦』を実行させようとしていのかもしれない、と感じていた。中谷くんもそれを意図してこの曲を選んだのだろう。僕の中で、中谷くんはもう初夏の風景・・・思い出のひとつとなっている。中谷くんはもう透明なんかじゃない。

「ありがとう。まさか本当に歌ってくれるなんて思ってなかった」

 やはり顔を赤らめて云う中谷くん。よっぽど嬉しかったのだろうな。

「欲を云えば・・・もっと歌って欲しいところなんだけど・・・」

やはり顔を赤くして云う中谷くん。僕も中谷くんと歌いたい。だから。

「いいよ」
「・・・でも、次の曲は俺に歌わせて」

 ・・・快諾した。次の曲はオリジナルの曲だという。なんでも想い人のために作った曲だとか。どんな曲なんだろう。

 <つづく>

テーマ : 自作連載小説
ジャンル : 小説・文学

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