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【小説】野良猫が鳴いてる

 富田です。

 一発書き第四弾。野良猫とアラサー女子のお話です。



 アラサー『女子』、職なしの私。

 夕暮れの川沿いを歩く私を、同じように川沿いを歩く一匹の猫が見つめてくる。猫が好きな私は、そっとその猫に近づき撫でようとしてみようとした―が、よく見てみると、その猫には首輪がなく、虚ろで光のない眼をしている。その上、常に涎を垂らしているではないか。恐らく、病気でも患っているのだろう。ちょっと舌打ちをして、この猫がどのようなリアクションを返してくるのかを伺ってみる。

「チッチッチッ、お猫ちゃん、お猫ちゃん…チッチッチッ」

 普通の猫のリアクションといえば、大凡、人間慣れしていて近づいてくるか、警戒して逃げていくか…の二択であるが、この猫は自ら近づいてくる私に対して何のリアクションも返さない。ただ、虚ろな目で私を見つめ、涎を延々と垂らしながら私の前を右往左往し続けているだけである。その姿は心なしか寂しげであり、また挑発的でもあった。もっと詳しく云うならば、思考というものを持ち合わせていない、ただただ本能に任せて生命活動のみを行う『猫』と名付けられた物体が眼前を動いているだけだった。

 そういえば、私はろくすっぽ働いていないし、特に信念というものを持ち合わせているというわけでもない。私もこの猫と同じで、ただただ生命活動のみを行う『人間』と名付けられた物体に過ぎないのではないか…と考えてしまい、いつの間にか塞ぎこんでしまっていた。

「お前さんはよぉ…俺と一緒じゃねえぜ…」

 突然聞こえてきた声。声の主は一体誰なのだろうか。私には眼前に居るサイケデリックな猫がそう語りかけて来た気がした…が、恐らく気のせいだろう。どこぞのアニメやファンタジーでもあるまいに、猫が人間の言葉を話すわけがないのだから。薬物中毒者のように呂律の回っていない、ハーモナイザーをかけたような声。その声が鳴り止むことはなかった。

「お前さんよぉ…若えのによぉ…そう考えこむのはよぉ…」

 呂律の回らない声はまだ鳴り響いている。

「俺みてぇによぉ…病気を感染されてからよぉ…弱音とかはよぉ…」

 病気? …やはりこの猫が話しているのだろうか?脳に直接訴えかけてくるような錯覚…いや、現実として脳に直接訴えかけられている。物は試しということで、眼前にある壊れかけた『猫』と名付けられた物体に話しかけてみる。

「病気を感染されちゃったの?」
「あぁ…そこいらの雌猫と『せっくす』したらよぉ…そいつが病気持ちでよぉ…んでよぉ…そこから先はよぉ…」

 聞きたくなかった、生々しい事実。そんなこととは思いもよらず。更に猫のような物体による自分語りは続いた。正直、気持ち悪くなってきた。あの面構えでこんな話を聞かされると思うと。

「取っ替え引っ替えしてたらよぉ…このザマでよぉ…アイツのせいでよぉ…俺はよぉ…」

 人間と同じように、そんな猫もいるのか。取っ替え引っ替えして、何か起きたら他人のせい。人間ならばゴミ呼ばわりされるような人種。猫であろうと…見た目の通り、コイツはまごうことなき、生命活動のみを行うゴミだ。何が『お猫ちゃん』だ。自業自得ではないか。少しでも同情しようとしてしまった私がつくづく馬鹿らしい。

「俺を罵ってよぉ…お前さんの悶々とした気持ちをよぉ…解放してくれや…」

 わかった。私もあなたの話を聞くにつれ『最低の物体だ』という認識が強くなってきたところだ。あなたの望むとおりにしてやる。めちゃくちゃに罵ってやる。そう決心して。

「あなたはゴミ、消えればいい」

 その声を聞いてか、猫の道から大きく外れた物体は涎を垂らし、虚ろな目をしながら草叢へと消えていった。川沿いを照らす夕陽が眩しい。私を照らすような、一筋の光明。私はまだそこまで堕ちていない。まだ少しだけ、頑張れる気がした。

 が、他人を見下して安心している私もゴミだ…と気づいたのは、それから数分経ってからのことだった。
 私は泣いた。

<おわり>



<あとがき>
 一発書きシリーズ第四弾です。モーモールルギャバンの『サイケな恋人』を聴きながら書きました。
 そんだけです。はい。

テーマ : 短編小説
ジャンル : 小説・文学

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