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【小説】望郷恋愛

 富田です。

 今回はちょっぴり趣向を変えて。



 村に恋愛を理解させること、村に縛られて生きることは難しかったようです。

 大学進学で都会に出るまで、私は常識というものを持ちあわせていませんでした。私の住んでいる村ではしきたりにかなり重きを置いており、それを守らなければそれこそ村八分にされるような環境で育ってきました。だからそれが当たり前だと思っていたし、世間様の常識が私達の常識から大きく乖離していることも分からずにいました。

 今でこそ一般的な常識を身に着けて都会の雑踏に紛れつつ日々を過ごしていますが、当てのない…世間様で云うところの『モテない』私の姿を見るにつけて両親は「早く帰ってきて結婚しろ、何なら私達が見つけてやる」としつこく云ってきます。お見合いのセッティングなどをされかけたこともありました。村という共同体を維持する上で嫁さんを見つけ、村へ帰ることはかなり重要なことであるようです。

 実際、私も村へ帰りたいと思うことが時々あります。眼前に広がる自然や畑、そして都会よりも澄み切った空気。これだけでも都会の人から見ても羨ましい環境と思えるかもしれません。しかし、私はそれを棄ててでも都会に居続けました。村のしがらみから逃れたい、その一心でした。

 そんな私がまともな恋愛を始めたのは社会人になってしばらく経った頃。彼女とは阿佐ヶ谷のライブハウスで知り合いました。彼女と付き合い始めてから私は幸せの渦の中にいるような感じ、と云えばいいでしょうか。相性も最高、趣味も合う、喧嘩もすぐに終わる…等、良いこと尽くめで結婚まであと僅か…といったところまで行った私達でしたが、両親はそんな私たちに対してあからさまな嫌悪感を示してきました。何故なら「村には帰らない、私達には私達のやり方があります」と彼女が宣言したから。

 両親は発狂寸前というところまで怒り狂いました。村に帰らないとは何事だ。こんな話の分からぬ小娘との付き合いは断じて認めない、という具合に。正直なことを云えば、両親に対して様々な意味での恐怖を感じました。ここまで怒り狂う両親の姿を今の今まで見たことがなかったからです。しかし、狼狽えながらも私は彼女に同調しました。

「俺も村から出る。空気は悪いかもしれないし環境的にもこの村よりは悪いかもしれない。でも、俺は彼女と家庭を築いて行きたい。だから、この結婚を認めて欲し…」
「そんなものは関係ない! 村を存続させる意思のない者との結婚など認めない!」

 父はテーブルを叩き声を荒げ云いました。テーブルを叩いた時の衝撃でガラスの灰皿に積もった灰が辺り一面にこぼれました。ここにおいては村を存続させることが最優先であり、あれだけしつこく要求していた『嫁探し』も、村を存続させるための手段でしかなかった…それを私は今になってやっと理解したのです。

 これだから村に来るのは嫌だったんだ…と、私は彼女を連れて村へ来たことを激しく後悔しました。これで彼女の私に対する心象が悪くなってしまったら…と思うと、居てもたってもいられなくなってしまったからです。そう思っていた時、どこからか父の悲鳴が聞こえてきました。

 彼女が、父を、殺めていました。

 父の頭からは多量の血が流れ、彼女の衣服にも血液が付着していました。部屋に置いてあった木製の置物で父の頭を殴打したようです。結婚を認めてくれなかったことに関して、余程腹に据えかねていたというこという理由であれ、父を殺めることは許されないことですが、理解することは不思議と容易く出来ました。『殺人』に及んだ彼女の目は光のない、呆然としたような目でした。

 「これで邪魔する人は、一人いなくなったね」

 彼女はそんな目で私に問いかけてきました。目の前に居るのは私の恋人であり『殺人者』。返す言葉がありませんでした。

 「じゃあ次は…」
 「やめろ!」

 どこからか持ってきたのか、包丁を片手に母のほうに向かう彼女を、私は一心不乱に止めました。しかし彼女はその手を止めることはしませんでした。光のない目で母を刺す彼女の姿だけが私の眼前に見えていました。苦痛の表情を浮かべ声にならない声を上げながら、母はこの世から去って行きました。

 「なんてことをしてくれたんだ…」

 私は彼女に静かに問いかけました。彼女の目は、光のない目からいつもの目に戻っていました。

 「いやあああああああああ!!!!!!!!」

 家中に響き渡るような声で叫んだ彼女。そのあと、包丁が床に落ちる音が響き渡りました。彼女は正気に戻ったようですが、目の前の惨状を見てさっきとは別の意味で発狂しそうになっていました。

 「お前…殺人者に…なってしまったんだぞ…」

 彼女は泣きじゃくりました。私に縋りながらどうしよう、どうしよう…と連呼していました。私は素直に警察へ行くことを勧めました。しばらくしないうちに、パトカーのサイレンがここへ近づいてくるのがわかりました。きっと悲鳴を聞きつけた近所の人間が警察に通報したのでしょう。

 彼女は殺人罪で逮捕されました。様々な手続きを経て裁判で下された判決は無期懲役。日もそこまで経たないうちに彼女は女子刑務所へ身柄を移されました。彼女は刑務官の下、模範囚として日々を過ごしていたようです。しかし―

 彼女は、独房の中で首を括って自害しました。

 手元には遺書が遺されていました。私の両親への詫びの言葉、そして私への詫びの言葉が便箋10枚にもわたって記されていました。それを読んで私は泣きました。私と付き合い始めたことがすべての引き金なのではないか、私と付き合いさえしなければ彼女は幸せに暮らせたのではないか、私が結婚を持ちださなければ彼女は今頃……と、自責の念に駆られた私は、彼女の後を追うことを決心しました。

 …あれから十数年。彼女の後を追い切れなかった私は、後ろめたさを感じながら日々を生きています。誰も不幸にしたくない。その一心で独身を貫いています。きっと、環境がどうであれ、私は相手を幸せにすることなど出来ないだろうから。

 <おわり>

テーマ : 短編小説
ジャンル : 小説・文学

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