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【小説】ぼくらの卒業旅行(第2話:食堂)

 富田です。
 今回は食堂編です。ご笑覧頂ければ幸いです。




 途中下車をすることを決めた二人。無人駅と言うこともあり、当然駅員はいない。車内で不足分の運賃を精算し、列車を降りる。向かうは駅前の古びた食堂。『うどん・そば』という暖簾がかかっているところを見る限り、恐らく営業はしているのだろう。ショーケースには暖簾通りのうどんや蕎麦、そしてカレーなどの食品サンプルが並べられているが、何十年も取り替えていないのか、ショーケースとともにサンプルそのものも煤けている。ここに陳列されているメニューが実際に提供されているのかどうかも疑わしい。

「すみませーん、空いてますかー?」

 店頭には誰もいない。少し声を張り上げて何度か尋ねてみる。店内には煤けた匂いが立ち込め、木製のテーブルと座布団のついた椅子が並べられている。まさに昔の大衆食堂といった趣。すると、恐らく店主であろう、白髪の歳を召した、如何にも『おばちゃん』というような女性が奥から出てきた。

「いらっしゃい、注文が決まったら声かけてね」

 と言い、再び奥へと引っ込んでいった。言葉ひとつ交わさず、黙々とお品書きを見つめる二人。どうやらうどんと蕎麦以外はやっていないらしい。

「どうする?」

 清純が和泉に尋ねる。

「つけうどん」

 そっけない答え。ある程度予想は出来ていたが。

「すみませーん」

 再び声を少し張り上げて『おばちゃん』を呼ぶ。
「はいはい、すぐ行くからね」
「じゃあ、つけうどんを…二つ」
「はい、つけうどん二つね」

 おばちゃんはそう言い、またも奥へと引っ込んでいった。その間も二人の会話はない。
つけうどんが出てくるのは意外と早く、おばちゃんが一人分のつけうどんを慎重に分け、二人の元へと置いた。
おばちゃんはつけうどんを食べている二人のテーブルの横に椅子を置き、何やら話しかけてくる。

「お二人は学生さんかい?」
「はい、学生です」

 基本的に答えるのは清純のほう。和泉はうどんをつゆに浸し、黙々とすすっている。

「へぇ。うちに来るのは大抵常連のおっちゃんばかりで、若い人はあまり来ないのよ」

 と嬉しそうに話しかけてくるおばちゃん。

「そうでしょうね…若い連中はコンビニとかファストフードで済ませてしまうでしょうし」
「そうなのよー、それに私も歳だしねぇ。類は友を呼ぶのかしらね。おっちゃんばかりよ」
「それにしては若々しく見えますけどね」
「あら、またまたそんなお世辞を」

 と言いながらおばちゃんは笑う。和泉は動じることなくうどんをすすっている。

「ちょっとスケベなことを聞くけど」

 おばちゃんから発せられた衝撃的な一言。

「…何ですか?」
「二人は恋人同士け?」
「こんな人と恋人同士になるなんて願い下げです」

ここで初めておばちゃんに対して和泉が口を開いた。

「またまたぁ、夜なんかは『アレ』、しとんのやろ?」

 すっかり方言丸出しで、かつニヤケながらおばちゃんは尋ねてくる。なるほど、確かにスケベな質問だ。

「絶っ対嫌です。こんな人となんか」
「おいおい、そこまで言わなくてもいいじゃないか…別に僕はそんなこと望んでないけどさ」
「嫌なものは嫌」

 和泉は機嫌を損ねたのか、食堂では一切おばちゃんや清純と口を利かなくなった。
 次の列車まで、あと三十分少々ある。その間、朝のような沈黙が支配するのか…と思った矢先、おばちゃんが食堂でするには一風変わった質問をしてきた。

「お二人さん、ここから先の切符は持っているのかい?」
「いいえ、持っていませんが…」
「じゃあ、切符売るわね」

 少し驚いた表情でおばちゃんに尋ねる清純。

「どういうことですか…?」
「何って、ここで切符を売るってことだよ」
「しかしここ、駅とは全く関係ない食堂で…」
「鉄道会社さんに頼まれてね、ここで切符を売ってるのよ。あの駅、無人駅でしょ」

 初めて知った。そういう制度もあるのか、と。少し利口になったな、と思う清純であった。

「どこまで行くんだい、お二人さん」
「僕達、東を目指しているんです」
「東といっても色々あるだろうに。どこまで行くんだい?」
「それが…まだ決めていないんですよ」
「変わった旅をしてるんだねぇ」

 おばちゃんは不思議そうな表情で二人を見つめる。それもそうだろう、目的地をまともに決めない客が大衆食堂に立ち寄る…などというシチュエーションを展開しているのは、この二人くらいなものだろう。

「じゃあ、一番遠くまで行ける切符を売ればいいのかしらね」
「それでお願いします。いいよね、佐野さん」

 清純が和泉に尋ねると、不貞腐れたように、無言で千円札二枚を差し出してきた。おばちゃんから一番高い乗車券を買う。差し出されたのは、懐かしさの漂う紙の乗車券。
 しかし、まだ次の列車まで二十五分ほどある。列車待ちの時間を考えれば、実質二十分程であろう。その間もおばちゃんはひっきりなしに喋ってくる。

「お二人さんは恋人同士じゃないってんだったら、何なんだい?」
「サークルの同期で…」
「それにしては会話がないわねぇ」

 和泉がおばちゃんを睨みつけて言い放つ。

「私は男が嫌いだからです」
「あら…それなのによく男の人と旅行してるわねぇ」
「彼が無理矢理誘ってきたんです。私にとっては不本意な旅行で…」

 それを聞いた清純がまくし立てる。

「おいおい、それは言いすぎじゃないのか。君だってあの時は承諾したじゃないか」
「いや、あんたがしつこかったから…」
「でもここまで来た訳だろ?」
「とにかく、私はあんたとなんか旅に出たくなかった。ずっと干渉されず、独りで居たかった」

 おばちゃんが二人を宥める。田舎の大衆食堂に煤の匂いと気まずさだけが立ち込めている。

「まあまあ、二人共喧嘩なんかなさんなって」
「すみません、こんなことで…」

 更に和泉が突っかかってくる。

「はぁ? 『こんなこと?』 あんた、私が男嫌いと知っているにも関わらず旅に誘っといて『こんなこと』ってどういうこと? ほんっと、無神経な奴」
「とにかく落ち着けよ」
「落ち着けるわけ無いじゃん」
「いいから」
「私はあんたのせいで…」
「…僕が君の掲げた条件をすべて呑んだこと、忘れてないか?」

 清純は声を絞り出して言う。

「ああ、確かに僕は下衆で無神経な男かもしれないさ。でもな、僕は君にしつこく語りかけてもいないつもりだし、下心なんか持っちゃいない。そこまで僕がしているのに君は何だ。そこまで言われる筋合いはないんだよ」
「喧嘩なんかおやめなさいって、やるなら外でおやり」

おばちゃんが今までとは打って変わって厳しい口調で言い放つ。

「本当に…すみません…」
「ささ、そろそろ次の列車が来る時間だよ」

 優しい口調に戻ったおばちゃん。
 おばちゃんに礼を言い、店を後にする。そして、次の東行き列車に乗り込む。勿論、気まずさも一緒に。

テーマ : 自作連載小説
ジャンル : 小説・文学

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