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【小説】ぼくらの卒業旅行(第1話:後編)

富田です。


 話は戻って二月の中旬、日曜日。

 自宅から心を躍らせ家を飛び出した清純とは裏腹に、非常に気だるく、かつ憂鬱な心持ちで家を出た和泉。その二人が午前六時に中心駅で顔を合わせた。

 「おはよう、佐野さん」

 早朝にもかかわらず清純は快活に挨拶をしてくる。和泉はこの男、よくも朝からこんなにはしゃげるものだ、心底思う。

 「…おはよう。朝っぱらからよくそんな元気でいられると思うわ。超眠いんだけど」

 清純に半ばうんざりした口調で返す。これが三日も続くのか…と考えると、胃が痛くなるような思いであった。いや、現時点で胃が痛い。乗る列車までまだ時間がある。その間、清純と何をしろというのか。何をする当てもないので、ひとまず券売機で買える最高金額の切符を買い、ホームへと上がっておく。外はまだ薄暗い。次の列車まで約二十五分。休日であるせいか、乗客の姿もまばらだ。その間は列車の音と沈黙がホームを支配していた。寒さを凌ぐために入った待合室も気まずい空間と化していた。普段は饒舌な清純も黙りこくったままだ。気まずさが支配したまま二十五分が経ったところで、列車がホームへ滑り込む。二人はボックス席に向い合って座った。

 列車は一度目の乗換駅へと向けてひた走る。車内でも会話という会話はない。やはりなんとも言えない雰囲気が漂う。次の乗換駅まで約二十五分。このままだと五十分も気まずさを味わうことになる。それに耐えかねた清純が遂に話を切り出した。

「今日はどこまで…行けるかな」
「さあね」

 和泉は相変わらず強硬姿勢を崩さず、鋭利な刃物のような口調で返す。清純が会話を切り出すことによって、気まずさに拍車をかけてしまったようだ。時間と重苦しい空気を乗せた列車がそのまま進んでいく。

 列車は一度目の乗換駅に滑りこむ。扉が開くと乗客は次々と新幹線のりばへと流れこんでゆく。ここでの待ち時間は約十五分。また重苦し雰囲気に支配されねばならないのか…と思うと清純はウンザリしてきたが、和泉と交わした『条件』もあるのでぐっと我慢。しかし、重苦しい雰囲気を突き破ったのは―

「…また待つの?」

 ―和泉のほうだった。思えばこの道中、和泉から話しかけてくることなど一度もなかった。清純からすればそれが意外でもあり、嬉しくもあった。

「うん、あと…十分くらいかな」
「へぇ」
「寒くない?」
「全然」

 二人は今日、初めて会話らしい会話をした。発車五分前、列車がのりばへと入ってきた。暖を取るには最適な空間であった。これから次の乗換駅までは約一時間二十分。そんな長時間も静寂が支配する空間に居続けるのは御免被る。しかし、提示された『条件』は守らなければならない。かといって、知人がいる手前で音楽プレーヤーを取り出して聴くのもどうかと思う。やはりこの空気に耐えるしか無いのか。この空気を破る手立てはないものか。もう自分の世界に入るしか手立てはない…と感じた清純はメモ帳を取り出し、作詩を始めた。



『胎動列車 : 白河清純
 
 夜明け前のこの街から
 発っていく列車に乗って僕等は何を残せるだろう
 何を残すべきだろう
 
 夜明けとともに胎動を始める列車の中で
 僕も夜明けとともに胎動を始める
 どこか遠い地へ向かうために
 どこか憧れの地を探すために

 そんな僕を見て君は何を思うのだろう
 何でもいいから教えて欲しい』



 ―何の捻りもない詩だな、と頭を抱えながらも列車は東へとひた走る。陽射しが車内に差し込む。いつの間にか外はすっかり明るくなっていた。気づけば二人が住む県にある東側の拠点駅。ここで乗客の大半が入れ替わる。車内から用務客や休日出勤のサラリーマンの姿はあまり見えなくなり、代わりに大きなスポーツバッグを抱えた中学生や高校生で埋めつくされた。静かだった車内が一気に賑やかになる。ところどころ会話が聞こえてくるが、一聴する限り、大人ぶった話に聞こえても、実際はあどけないものだったりするものだ。あとは試合がどうだ、先輩がどうだ、恋愛がどうだ、といった話。

「そういえば僕も昔はそんな会話で盛り上がっていたな…」

などと回顧しているうち、列車は再び東へ向けて動き出した。

 その間、和泉は何をしているかといえば、ぼうっとした表情で外を見つめていた。見方を変えれば、何かを考えているようにも見えた。実際はどちらなのか気になるところだが、過干渉と取られてしまわれたらそれも厄介である。和泉の好きなようにさせよう…と清純は思い、和泉と同じように車窓を眺めることにした。

 進行方向右手に新幹線の高架が見えてくる。二つの路線が入り混じる分岐駅が近いことを示す目印だ。乗り換えるか? それともこのまま乗って行くか? 流石にそれを清純の独断で決めることは出来ない。『条件』を破ったと思われることを承知で、意を決して和泉に話しかけることにした。

「次の駅で二つのルートのうち、どちらかを選ばなければいけないのだけれど…どうする?」
「面倒臭いからこのままでいい」

 あっけない回答だった。どちらにしても乗り換えは発生するが、和泉が選んだのだからそれでいいか…と思い、清純は承諾した。

 列車は単線のローカル線へと進んでいく。幾つかの無人駅を過ぎれば二度目の乗換駅。二両編成、ワンマン運転の如何にもローカル線、といった風情を漂わせる電車がホームの向かい側で二人を待ち受けている。二人は迷わずその列車に乗り込む。朝であるということ、そして休日であるということもあってか、乗客はまばらだ。ローカル線の普通列車に揺られながら、二人は東へと向かい続ける。

 しかし、このまま東へ向かう予定だったが、二人は一休みせざるを得なくなる。和泉が唐突に放った一言によって。

 「…お腹すいた」

 和泉の唐突な一言に困惑する清純。しかし無理もない話だ。朝六時に集合してから、何も食べていないのだから。

「次の乗換駅まで我慢出来ない?」

 清純は和泉に懇願する。この路線は毎時一本しか列車がないということを知ってのことだ。しかし和泉は、
「ごめん無理」

 ―と繰り返すのみ。やむを得ない。コンビニか食堂のありそうな駅で降りよう、そう決めた。次の無人駅の前に『うどん・そば』と書かれた暖簾が見える。二人はそこで降り、遅めの朝食を摂ることに決めた。

<つづく>

テーマ : 自作連載小説
ジャンル : 小説・文学

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