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【小説】僕は旅に出たいと思ったのだ

燦々と日が降り注ぐある土曜日。
薄っぺらい鞄ひとつで家を飛び出し、この街ともしばらく…もしかすると永久にさようなら。僕が旅に出ようと思ったのは、『現実逃避』と『死に場所を見つける』ためだ。
高架化された没個性的な駅から普通列車と快速列車を乗り継ぎ、行く先も決めぬままひとまず西へと向かう。何故かは知らないが、とにかく西へ向かわねばならない、という義務感が僕を支配していた。
手始めに券売機で買える最高金額の乗車券を買っておく。もし乗り越したら精算すればいい。途中で飽きたら飽きたでそれでいい。どうせ遠くまで向かうのだから、その辺を考慮する必要なんて何一つ無い。
列車は農村や山の中を縫うようにして走っていく。僕にとっては同じような景色が広がっているように見えるだけで、正直なところ僕にとっては退屈な景色でしかなく、知らぬ間に寝てしまっていた。

旅を始めて降り立ったのは地方都市の駅。家電量販店があったり路面電車が走っていたり…と、そこそこ栄えた街だ。駅の知名度だけで降り立ったが現実を見せ付けられているようで嫌になり、路面電車に乗り、名物といわれている城を外から見て足早にその街を去った。
次に降り立ったのはその街からそう遠くない街。ジーンズが名物らしく、至る所にジーンズショップを見かける。その先にあるのはそこそこ名前の知れた古くからの街。そこには歴史的建造物がそこらに点在している。僕は無意識にそこへ向かう。観光も何もせずに西へ向かうことは勿体無い…と思っていたからだ。

しばらく足を進めると、歴史的建造物が立ち並ぶ一帯へと着いた。この地域に来るのは初めてで何もかもがわからない。そこで、ボランティアガイドを頼むことにした。
僕以外は仕事をドロップアウトしたような年代の男女ばかりで、いわゆる『若者』は僕だけだった。ボランティアガイドは若めの女性。この建造物はいつ頃に建てられ、今は云々として…とというように、時々冗談も交えて懇切丁寧に案内してくれる。街中には川が流れていて、わずかながら観光船も通っていたりもする。折角だからと船頭に導かれるまま観光船に乗る。川岸から眺める景色とはまた違った風景が眼前に広がる。僕らの写真を撮る者もいる。

ひと通りの行程が終わったところで、ガイドの女性に呼び止められる。

「どこから来られたんですか?」
「都会とも田舎ともいえない、あの街からです」
「ずいぶん遠くからいらしたんですね」

何故、彼女が僕を引き止めたのか、僕は全然分からなかった。すると、唐突にガイドの女性は云った。
「現実世界で…悩みとかあったんじゃないですか?」
 すべてを見透かされているような気がした。確かにそうだ。その通りだった。しかし…何故それを見ぬかれたのか。僕には理解できなかった。
「はい…ちょっと人間関係で…」

僕は消え入るような声で答えた。

「相手の方も今頃は後悔していると思いますよ。私にはわかります」
「しかし、何故そう言い切れるんですか? しかも出会って数時間しか経っていないあなたに」
「信じてもらえないと思いますが…私、人の境遇が見えるんです」

信じられない。それってオカルトとかそういう類じゃないのか。疑念しか湧いて来なかった。

「いつからかはわかりませんが、他人の未来が見えるようになったんです。今回お客様はお歳を召した方に混じってガイドに参加されていた。なのでどんな境遇でここへ来たのか、少し興味があったのです」
まるで覗きじゃないか…と思いながらも、僕は話を聞き続けた。しかし、まだ彼女の言うことが信じられない僕もいた。

「私にそんな資格はないかも知れませんし、大きなお世話かも知れません。しかし敢えて言わせて頂きます。あなたはここを離れたらそのままご自宅へ帰るべきです」

語気を強めにして云う彼女。

「何故、旅をやめなければいけないのですか?  僕は『逃避』するため、そして『死に場所』を探しに旅を始めたというのに…」
「そこなんです。あなたは『逃避』や『死に場所探し』をやめねばならない。何故なら皆があなたがいなくなったことを後悔するからです。そして、その旅を続けることによって大切な物を失いかねない」

僕は納得できなかった。オカルトの世界から這い出てきたような女性に僕の人生設計を左右される筋合いはない、そう思っていた。

「…あなたの忠告はわかりました。しかし、僕は旅を続けます」

女性は笑顔で僕に語りかける。

「わかりました。あなたの決断ですから、私に止める権利はありません。もし何かあたら、またいらしてください。何か力になれるかも知れませんので。お待ちしております」
「はい、わかりました」

僕は言葉少なに彼女と別れた。

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